水本慎太郎(以下、水本):服電 Clothes Call Produced by Lv.99。ナビゲーターの水本慎太郎です。本日も原宿CAT STREETのテーラリングアトリエ、Lv.99からお届けします。
毎日何気なく選んでいる服には、その人の生活や仕事、気分、価値観が静かに表れています。この番組では、服という人の今を映す文化をアーカイブしていきます。毎回ゲストの方にお電話をして、電話越しにその人の服にまつわるエピソードを伺います。そこから広がり、仕事や活動、趣味、価値観といったお話をリスナーの皆さんに共有していきます。
まずは最初の目標として、九十九人の方に話を伺いたいという熱意だけで始めてみたいと思います。それでは、記念すべき第一回は、昨年公開された映画『レクイエム』の脚本も書かれた作家の宇咲海里さんとお電話が繋がっています。今日はどんなお話が聞けるのか楽しみですね。
水本: こんばんは。今日はよろしくお願いいたします。あの、まず最初にですね、リスナーの皆さんが宇咲さんのイメージを膨らませるために、今、宇咲さんが着ている服装を教えていただいてもよろしいでしょうか?
宇咲海里(以下、宇咲): 今ですか? 普通にジーンズに、上はなんていうかな、ちょっとドレスシャツみたいな感じにはなっていますけれど。
水本: なるほど。普段からそういったデニムとシャツみたいな格好をなさってるんですか?
宇咲: そうですね。基本的にはラフな格好が好きなんで、夏だったら本当に短パンとTシャツが多いですし、それ以外の季節はほとんどデニムを履いていることが多いですね。
水本: 割とこう、かしこまった場とかで宇咲さんをお見かけすることが多いんですけれども、そうした時には随分ドレッシーな格好をなさっていると感じていたので、すごく意外でした。
宇咲: ああ、そうですか。まあ、TPOがはっきりと分かれるような仕事が多いので。通常はもう完全にラフな格好が多いですし、仕事もできるだけネクタイをするような仕事をしてるんですけど、それでも「できればしたくないな」と思いながら生活してるんですけどね(笑)。ちゃんと公に前に立つことも多いので、その時はきっちりTPOを分けるようにしてる感じですかね。
水本: なるほど、ありがとうございます。今日はラフな格好ということですね。
「パーカーとヨット」の意外な関係と、体型ゆえの選択
水本: ここから、宇咲さんの服にまつわるお話を伺っていこうと思います。まず、よくローテーションがヘビーな、つい手に取ってしまう服はありますか?
宇咲: やっぱり基本はデニムジーンズが多いっていうのもありますし、上は季節にもよりますが、秋冬、春先ぐらいまではパーカーが好きですね。あんまりパーカー好きって言うと「ファッショナブルな人じゃないのかな」と思われちゃうかもしれないですけど、パーカーはすごい数持ってるんで、着回すことが多いです。
水本: それは、宇咲さんはヨットに乗られていると思うんですけれども、そういった海辺の暮らしも関係していますか?
宇咲: あ、いや、それはもうほとんど逆になくて。世間的には「パーカー=船やヨット」というイメージがあるのかもしれないですけど、実際海にいる人間たちはパーカーなんて着てる人は全くいないし、僕自身も海に出る時にパーカーは着ません。そこは直接全く繋がってないですね。それが結構、世の中の人の先入観なのかなと思っています。
水本: なるほど。じゃあ純粋に「フードが好き」ということで着られているんですね。つい選んでしまう理由は、やはり着やすさからでしょうか?
宇咲: 僕は長いことヨット競技をしていたので、体型的にも上半身がかなりこう、俗に言うマッチョみたいな形、逆三角形的な感じで。サイズ感で言ったら、極端な話、下がSで上がLみたいな感じなんですよ。
水本: それはなかなかですね。
宇咲: そうなんですよね。なのでシャツを選ぶにしても、かっちりしたシャツを着ようと思うと結構窮屈なんです。シャツを着るんだったらノリがあまり入っていないドレスシャツだったり、パーカーみたいにふわっと着れるものの方が体型的に楽だというのはありますね。
水本: あんまり締め付けられるような服は好みではない、という感じですか?
宇咲: 普段の生活ではできるだけそれを避けるようにしています。逆にドレッシーな格好をしなければいけない場合は、あえて結構タイトなものを着ることで、「普段と違うよ」というのを自分の体に分からせるというか。普段ふわっとしたものを着ている分、TPOでそういう場に行った時にはキチッとしたタイトなものを選びがちですね。
勝負服に宿る「生地へのこだわり」と、学生時代の「脱・制服」
水本: まさに今そういうお話を伺おうと思ったんですが、大切な仕事の時、いわゆる「勝負服」みたいなものはお持ちですか?
宇咲: きっちりした場だと、スーツも好きな方ではあるので、水本さんのところで作らせていただいたタキシードとかね。
水本: ありがとうございます。
宇咲: いえ、とんでもないです。こだわりというよりは、好きな生地――例えばロロピアーナが好きだとか、ゼニアが好きだとか、そういうのが自分の中にあるので、自分の体型に合わせて作っていただくことが多いです。吊るしのスーツだとどうしても体型が合わないので。
水本: 横浜国際映画祭のレッドカーペットの時もそうでしたよね。Yahoo!ニュースに写真が載っていて嬉しかったです。
宇咲: ありがとうございます。
水本: 角度を変えた質問ですが、逆に「絶対に着ない服」ってあったりしますか?
宇咲: 基本的にオーセンティックな家で育てられて、「ファッションはきっちりとTPOを分けるものだ」と言われてきたので。男の子なので反抗期もあって、親に言われた通りやりたくないから、10代の頃はわざと着崩したり崩れたものを取り入れたりするのが好きだったんです。だから意外と「こういうタイプは着ない」みたいなものはなくて、絶対着なさそうなものも自分のファッションに少し取り入れたりするタイプですね 。
水本: なるほど。そういえば学生の時も、制服を着ている姿を一回も見たことがないような気がしてきました。
宇咲: 水本さんは私の2個後輩で高校が一緒なんですけど、あんまり制服を着ないで学校に行っていましたね(笑)。一人だけカジュアルな人生を送っていました。
機能と人生のテーマ「適度に、余白を持って生きる」
水本: 服について、記憶に残っているエピソードや言葉があれば教えてください。
宇咲: 10代の頃はDCブランドブームで身を固めたり、わざと着崩したりして見た目のかっこよさを楽しんでいたんですが、20代でヨット競技を始めてから、ファッションの大事な部分が変わっていきました。ロングレースだと24時間以上海の上に居続けなきゃいけないので、保温力や乾きやすさといった「機能」をすごく重視するようになったんです。
水本: 実用性が重要になってきたんですね。
宇咲: ただ、機能が高ければいいというわけでもなくて。オーバースペックになると重すぎたり動きが制約されたりもする。そこで僕が大事にしているのが「適度」という言葉です。これは人生のテーマでもあって、少し自分の生き方に余白を残したい。服装も、何百万もするジャケットだと汚したらどうしようと気になってしまう。モノには適正な金額があり、適正な機能がある。そのバランスを見て、普段の服装は選んでいるのかなという気がします。
「何者にもなりたくない」――興味が繋ぐ、映画とトゲナナフシの共通点
水本: ここからは宇咲さんご自身のことについて伺いたいのですが、脚本家、作家、俳優、監督、実業家……と多彩に活動されています。「宇咲海里」とは一体何者なのでしょうか?
宇咲: 肩書きには全然こだわりがなくて、ひっくるめて「作家」とお伝えはしています。でも実は「何者にもなりたくない」んですよ。誰かに「宇咲海里はこういうやつだ」と決められるのがすごく嫌で。単純に人生は短いので、いろんな経験をしたいし、いろんなものを知りたい。興味が湧いたらそっちに行ってしまう性分なんです。
水本: その行動力がすごいです。昨年は日本で9例目となる「トゲナナフシのオス」を発見されたことも話題になりましたね。
宇咲: 自然界では7例目ですね。トゲナナフシはメスだけで増える生き物で、オスが生まれる確率はものすごく低いんです。たまたま虫が好きで、オスとメスの見分けができたから発見できました。自分自身をただ見つめるよりも、自分以外のものをよく見ることで、結果的に自分自身を見つめることになるんじゃないかと考えています。
水本: 映画監督としての活動と、昆虫の研究。一見すると大きな振れ幅があるように思えますが、宇咲さんの中では繋がっているのでしょうか?
宇咲: 僕の中では完全に同じものですね。切り取るとバラバラに見えるかもしれませんが、人生全体で見ると緩やかに全部が繋がっている。ファッションも、トゲナナフシも、作家の仕事も、全部が繋がっているからこそ、そのすべてに関わらせていただいているんだと思います。
明日、どんな気分で服を選びますか?
水本: いよいよ締めの質問です。明日はどんな気分で服を選ぼうと思いますか?
宇咲: 今年は冬でも昼間が暖かいので、あまりダウンを着ていないなと思っていて。明日はちょっとお出かけするところがあるので、最近買ったジャケットを着て出かけようかなと思っています。
水本: きっと華麗に着こなされるんだと思います。本日のゲストは、作家の宇咲海里さんでした。ありがとうございました!
繊研新聞ピックアップ
今週のニュースを「繊研新聞」からピックアップしてお届けします。ウールの聖地、愛知県・尾州産地が厳しい局面を迎えています。最新の統計によると、国内の毛織物生産量はこの10年で約半分にまで落ち込み、縮小スピードが加速しています。背景にあるのはアパレル産業の構造変化です。近年は生地そのものを海外製に依存する製品輸入が急増し、尾州のシェアを奪っています。特に染色整理段階の拠点が集約されるなど産地の心臓部が揺れる一方で、企業再生ファンドによる買収など、生き残りをかけた再構築の動きも活発化しています。世界に誇る日本のウールが、今まさに大きな分岐点に立っています 。
Lv.99 インフォメーション
2月より、いよいよ2026年春夏の新作生地が続々と入荷し始めます。今回も素晴らしいクオリティのものが揃っています。一方で、2025年秋冬の生地はいよいよ最終在庫となります。コートやツイードなど、今シーズンのうちに仕込んでおけば、来シーズンの冬を最高の一着で迎えられます。ご相談は公式LINEやDMからお気軽にどうぞ 。
エンディング
宇咲さんが「その時に最適な機能を備えた格好を、結果的に選んでいる」というお話をされていましたが、無意識のうちに従っている価値観って誰しもあるのかもしれない、と気づかされた回でした。第1回、手探りではありましたが、宇咲海里さん、本当にありがとうございました。99人へのインタビュー、まずは第一歩です。リスナーの皆様、また次回お会いいたしましょう。ナビゲーターの水本慎太郎でした。お気に入りの服を着て、良き週末をお過ごしください。